




山崎蒸溜所は長年にわたり世界でも稀な、多彩なモルト原酒のつくり分けをおこなっています。このつくり分けは日本人の繊細な味覚にあったウイスキーを追求しながらも、世界に通じる香味を創造することからはじまりました。
山崎のモルト原酒が世界品質として認められたいまでは、より高いレベルでの探求に向かっています。未来の麗しい香味創造のために匠の技を極める、職人の研鑽に終焉はありません。

原料の大麦麦芽は、麦芽乾燥時に燃料の一部としてピートと呼ばれる泥炭を焚き込めるピーテッド麦芽から、ノンピーッテッド麦芽まで幅広く使用しています。さて甘い麦のジュース、麦汁という糖液を得る仕込みとも呼ばれる糖化・濾過工程からモルト原酒づくりは本格化します。温水とともに粉砕した麦芽を仕込み槽に投入。これをゆっくりと丁寧に濾過します。できるだけ澄んだ清澄麦汁を得ることに神経を注ぎます。清澄麦汁は花や果実を想わせるような香り高い、甘く華やかなエステリーと呼ばれる伸びのいいリッチな酒質に導きます。エステリーは山崎モルト原酒の神髄ともいえる香味です。

発酵では麦汁を発酵槽に入れ、酵母を加えてアルコール分約7%の醪(もろみ)をじっくりと時間をかけてつくります。発酵槽は木桶とステンレスの2タイプ。とくに木桶槽はダグラスファー(米松)の保温効果により醪の熟成がよくすすみ、ミクロフローラと呼ばれる蒸溜所に棲む乳酸菌をはじめとする微生物が活躍して成分豊かなモルト原酒を生み出します。酵母はクリーンでエステリーな香味に貢献するディスティラーズ酵母と、フルーティでクリーミーな深い香りを生むエール酵母の2タイプ使用。両者をミックスすることが多く、それが山崎のモルト原酒に複雑な香味をもたらします。

山崎には形状、サイズの異なるポットスチルが6系統12基あり、世界でも稀な設備が施されています。蒸溜は2回。醪を70%~65%のアルコール分に高めます。釜の形状は大まかには2タイプ。ストレート型とバルジ型。ストレート型は力強く重厚な酒質。バルジ型はストレート型に比べて軽快な味わいの酒質を生み出します。加熱方法は直火蒸溜と間接蒸溜。直火蒸溜は醪がトーストされて香ばしく力強い原酒を生み出す特長があり、間接蒸溜は直火蒸溜に比べて酒質は軽快なものとなります。こうして山崎では、仕込みから蒸溜までにさまざまなつくり分けをおこなっています。

山崎ではオーク材、形状、サイズの異なる5種の樽を使っています。バーボン樽を再利用した容量180リットルのバーレル。バーレルを解体し、ひとまわり大きくして組み直した容量230リットルのホッグスヘッド。ホワイトオークからつくる山崎独自のずんぐりとした容量480リットルのパンチョン。同じ容量でもやや細長い、シェリー樽やミズナラ樽のバットがあり、山崎では多彩な個性のニューポットが多様な樽に詰められます。チャーと呼ばれる樽の内面の焦がし方にも変化を持たせてあり、樽熟成によってさらに多彩な香味特性が生まれています。尚、サントリーでは自社で製樽もおこなっています。

山崎の貯蔵樽に使うオーク材は北米産ホワイトオーク、スペイン産コモンオーク、北海道産ミズナラの3つ。ホワイトオークは熟成においてバニラ、ココナッツのような香味を生みます。スパニッシュオークとも呼ばれるコモンオークはホワイトオークに比べてタンニンなどのポリフェノールが多く溶出して、原酒に濃厚な赤褐色を与えます。熟した果実、チョコレートなどを想わせる濃厚なフレーバーが特長的です。ミズナラは長期熟成するほど独特の素晴らしいオリエンタルなフレーバーを育む特性があり、白檀、伽羅を想わせる香味に柑橘系の甘みも潜んでいます。その特長ある香味に海外から注目が集まっています。

オークの森を歩き、樹を選定する。そこから山崎の貯蔵樽づくりははじまります。たとえばコモンオーク。スペイン北部の森で樹を選び、現地の製樽会社に厳格なスペックを伝えて製樽し、スペインで3年間シェリーを熟成させた樽を使います。またコモンオークを材のまま自社の製樽工場に送り、新樽の製造もします。ミズナラも北海道の森で選定、北海道で製材し、自社で新樽を製造。同様にホワイトオークの森も歩きます。すべては最良の樽で、最良の熟成効果を得るため。妥協することなく、自分たちの力がおよぶ限り最善を尽くすのです。もちろん、オークの森の保護、育成にも取り組みつづけています。

山崎シリーズは、10年、12年、18年、25年すべての香味特性が異なります。山崎のモルト原酒は樽種や樽材、内面焼きの違いや使用何回目の樽か、貯蔵場所などさまざまな要因が重なり、それぞれの熟成のピークに差が生じます。そのためブレンダーが膨大な熟成原酒の中からエイジングにおいて熟成のピークを迎えた最良の原酒を厳選、ヴァッティングしてつくり上げているのです。彼らは1日200~300もの原酒サンプルをテイスティングし、熟成度合いをチェックしながら未来を見つめます。ニューポットをどんな樽に詰めるか、樽材の選定など未来への財産を残す仕事もブレンダーの役割です。